My lovely person
09
跡部邸へ帰ってきた一同はメインホールの隣にある少し小さな談話室のようなところへ集まった。気を失っているリョーマは跡部の案
内で寝室に寝かせて倫子が付き添っていた。
「さて、まずは俺の自己紹介からいくとするか。俺は越前南次郎。で、リョーマに付き添ってるのが妻の倫子だ。さっきも言ったがリョー
マの父親と母親だ。」
跡部が戻ってきてからまずは南次郎から話し出した。
「俺は征鷽のキャプテンの手塚国光といいます。なぜリョーマを置いていかれたのですか?」
「俺は昔からずっと海賊だった、だが、倫子と結婚して倫子の中にリョーマが出来た時海賊はやめたんだ。でも、リョーマが生まれたと
き、こいつにも俺が見て来た世界を見せてやりてぇと思った。倫子は快く賛成してくれたんでな、親子3人で世界を回ったのさ。その途中
、リョーマが5歳ぐらいのときだ。俺は長年探してた『王者の冠』という財宝を偶然見つけたんだ。」
「じゃあ、千石が言ってた南次郎さんが手に入れたって言う財宝が『王者の冠』ですか?『王者の冠』ってそれを手に入れるとすべての
海賊の頂点に立つことができるという冠ですよね?」
大石の言葉に南次郎は頷いた。
「ああ、そうだ。だが、俺はもう海賊じゃなかったんでね。頂かなかったのさ。」
「え?でもさっき世界中の貧しい奴等にばらまいてきたって。」
鳳の質問にニヤっとした笑いを浮かべた。
「嘘は言ってねぇぜ。確かに『王者の冠』は頂いてこなかったが、その周りにあった財宝は頂いたんでね。」
「そういうことっすか・・・。」
脱力したように桃城が呟いた。
「話を戻すぞ。俺は『王者の冠』を頂かなかったが見つけたことは確かだ。どこからそうなったのかは知らねぇが俺が『王者の冠』を手に
入れたということになっていたらしい。だから俺たちは身を隠すために姪のいる村にいたんだ。だが、追っ手が近くまで来ているという噂
を聞いたんでな、リョーマを危険な目に合わすわけにはいかねぇ。だから俺達はリョーマを姪に預けて逃げてたのさ。でも、俺のせいで
姪や村の奴等が殺されちまった。」
「そうですか・・・。」
南次郎の話を聞き終わり、手塚が呟いてから部屋は重い空気になってしまった。
「おいおい、そんな重い空気になるなよ。」
「ですが。」
「お前等リョーマの面倒見てくれてたんだろ?サンキューな。」
「おちびは俺らの仲間だから当然だにゃー!」
「そうですよ、僕等全員リョーマのこと気に入ってますから。」
「俺らもリョーマとは今日会ったばっかやけど、気に入ってますよ。」
「リョーマ優しいC−美人だC−!」
南次郎の1言に菊丸と不二、忍足と珍しく起きていた芥川が答えた。
その時、ドアがいきなりバンッ!と開き、ドレス姿のままのリョーマが勢いよく入ってきた。
「「「「「「「「「「「「リョーマ!!!」」」」」」」」」」」」
南次郎以外全員の声がハモってびっくりした声を上げた。リョーマはそんな彼等に目もくれずに部屋を見回して目的の人物を見つける
とツカツカとその人物の前へ行った。
「おーリョーマ、目ぇさめたか。久しぶりだなー。それにしてもおめぇ、美人になったなー。」
南次郎だった。南次郎の前まで来ると下を向いたまま震えていた。
「なんだリョーマ、お父様と久しぶりに会えて感動して泣いてるのかー。」
南次郎が言った瞬間、ばっと顔を上げて、
「こんのバカ親父――――――!!!!!!!!!!!」
バキッ!
殴った。
「何しやがんだ、リョーマ!!」
「『何しやがんだ』じゃねぇ!!母さんから話は聞いた!!散々俺や奈々子さんや村の人たちに心配かけといてなにが『久しぶりだな』
だっ!!それに6年間も何処ふらふらしてたんだよ!!」
南次郎の胸倉を掴んで叫んでいると、倫子が入ってきてリョーマを止めた。
「はいはい、リョーマそこまでにしなさい。あなたもリョーマに言うことあるでしょう?」
リョーマは倫子に言われてしぶしぶ手を放すとぷいっと向こうを向いてしまった。
そんなリョーマを見て南次郎は苦笑すると、向こうを向いているリョーマに言った。
「悪かったな。お前を放ったらかしにしてて。お前はまだ小さかったからな、一緒だと人質にされやすかったんだ。ほとぼりが冷めたらお
前を向かえに行くつもりだったんだがな、思ったより長引いてしまったんだ。すまねぇ。」
「・・・・そんなのわかってた。俺が一緒だったら俺が狙われて足手まといになるっていうことぐらい。でも、置いていかれたと思ったら寂し
かったんだよ。」
「・・・リョーマ、ごめんなさいね。」
少し寂しそうに言ったリョーマを倫子が抱きしめた。
そんな2人を全員が暖かい目で見つめていた。
それから仕切りなおしということで再びメインホールでパーティを始めた。
リョーマは久しぶりの再開ということもあって南次郎と倫子と一緒におしゃべりをしていた。おしゃべりと言っても南次郎がリョーマをから
かってリョーマを怒らしてるだけだが。
途中、リョーマは征鷽や彪廷のメンバーが集まってる所へ行ってお礼を言った。すると、皆「声がでるようになってよかったね。」と声を
揃えて言った。ひとしきり談笑するとリョーマは「涼んでくるっす。」と言って、ベランダへと出て行った。
「疲れたのか?」
ベランダでリョーマが涼んでいると、いつのまに来たのか手塚が立っていた。
「まぁ。今日は色んなことが一度にたくさん起こったから。」
「そうだな。だが、ご両親にも会えた、声も戻ったからよかったじゃないか。」
「そうっすね。親父に会ったら絶対一発殴るんだって決めてましたから、それが出来て満足っす。」
「それはよかったな。」
「手塚さんはなんでここに?あっ、手塚さんも涼みに来たんすか?」
リョーマの言葉に一瞬間をおいてから言った。
「お前に言いたいことがあって来たんだ。」
「俺にっすか?」
「ああ。」
「何すか?」
「リョーマ、これからどうする?ご両親と会えたのだからご両親と一緒に暮らすか?」
「・・・・・・考えてないっす。」
「そうか。リョーマが嫌でないなら征鷽の一員になってほしい。」
「え?それって・・・。」
「俺はお前が好きだ。」
「っ!!!」
「俺はお前と一緒に世界を見たい。南次郎さんがお前と倫子さんに世界を見せてやりたかったように、俺もお前に世界を見せたい。」
「・・・・・。」
「ダメか?」
「ううん!!嬉しい!!俺も手塚さんのこと好き。一緒に世界を見たい。俺を征鷽の一員にして。」
「本当か?」
「うん。手塚さんに女を乗せるのは歓迎できないと言われた時ショックだった。でも、俺だけは別だって言ってくれて嬉しかった。」
「リョーマ。」
リョーマのその言葉に手塚はリョーマをそっと抱きしめた。
「あの時はすまなかった。お前を傷つけた。」
「ううん、あれは俺が早とちりしたんだ。それにちゃんと追いかけて来てくれたし。手塚さんが追いかけて来てくれて嬉しかった。」
「リョーマ、国光と呼んでくれ。」
「・・・国光。」
「リョーマ。」
そして二人はどちらからでもなく口付けを交わした。
次の日、彪廷のメンバーと南次郎と倫子に見送られ、征鷽の船は出発した。南次郎と倫子は娘が海賊になることに反対しなかった。そ
れどころか、「俺の娘だからな、いずれはそうなるだろうとは思ってたぜ。」と豪快に笑ったのだった。二人はこれから南次郎の故郷に戻
り、静かに暮らすらしい。
―そしてリョーマは・・・
「今日から征鷽の一員になった越前リョーマです。」
リョーマが船員達の前で挨拶すると、菊丸が飛びついてきた。
「にゃー!!おちびー!!一緒に航海できるなんて嬉しいにゃー!!これからよろしくなー!!」
「英二、リョーマがつぶれるでしょ。僕も嬉しいよ。改めてよろしくね、リョーマ。」
「よろしくっす。英二!!重い!!」
とりあえず返事をしてどうにか英二をどかそうともがくがびくともしない。すると突然ふっと軽くなった。不思議に思って見てみると手塚が
菊丸の首根っこをつかんでリョーマからどかしていた。
「手塚!!何するにゃ!!」
「リョーマにひっつくな。」
「えー、手塚。何の権利があってそんなこと言ってるのかなー?」
「リョーマは俺のだ。」
「えー!!おちびって手塚のものになっちゃったのー!!」
「ふふふ、いい度胸だね。でも、」
「「邪魔してやるっ!!」」
今日も征鷽の船は笑いがあふれていた。
つらいことがあってもその先には必ずいいことがある
挫けそうな困難なことがあってもそれを乗り越えると素晴しい世界が待っている
諦めないでいるとその先には光があるんだ
END
